第三回 植田さんからのメッセージ


ドイツ研修旅行 2000年5月31~6月13日
6/1(木)~6/2(金)晴
 早朝6:00ドイツ・フランクフルト空港に着くとそこには、懐かしい2人の顔が出迎えてくれた。
 昨年の12月25日私の参加する、竹の会(建築士を中心とする露強会)のメンバー数人でワークショップをやることになり、宮崎は高原の地で竹垣つくりに取り組んだ。その時参加したのがこの2人のドイツから来た大学院生たちだった。共にドイツのカツセル大学に学び1人は日本人留学生の飯田さん、もう1人はドイツ人のアレキサンダー君、2人は、カツセル大学でランドスケープを学ぶ学生で竹の会の世話人である建築家の岩切平氏(高原在住)のもとを訪れたのを機に高原町で大学での研究成果を発表したり竹垣つくりに参加したりと、楽しい数日間を過ごしたのであるが、帰国後その体験を大学で話したところ、是非ドイツにもという話しになった訳である。
 私にとって初めての海外旅行はこうして始まった。
 旅行の参加者は総勢21名、朝のフランクフルトの街を散歩し小さなレストランで朝食をとる。早朝の市街地は人影もまばらで車も少なく、広々とした印象で敷石の広場、のびやかな緑の街路樹、歩道の周りに植えられたたくさんのバラや草花。この時期のヨーロッパは1年中で1番良い季節だと聞いていたがまさにそんな空気だった。レストランの透明なショケースには色とりどりのベリーを盛りつけた大きなケーキが並んでいて季節のめぐみを目でも味わせてくれる。
 朝食の後、我々は市内の数ケ所の博物館を見て回り、その日の午後、今回の旅行の目的の1つであるアールハイムのシンポジューム会場までバスで移動。
 今回ドイツを訪れた1番の目的はこの年ドイツで開かれたEXPO2000のシンポジウムへの参加とカツセル大学での竹の会の講演会だった。この年のEXPOは環境問題をテーマに世界各国が出展しハノーファーを中心にドイツ国内で280のプロジェクトが用意されており、その中の会場の1つアームハイムのリヒヤローデ村(人口110名)では、「村とランドスケープ」をテーマに2日間の日程でシンポジウムが開かれ、ドイツ国内の研究者だけでなくハンガリー、オーストリア、ギリシャ、スイス、アメリカといった国々の参加者の発表が行われ、その内容は、「村とランドスケープ」「村と土地利用」「ランドスケープ美学の変化」「ヨーロッパの村々のサウンドスケープ、国際音プロジェクト」「世界文化遺産」「ランドスケープ、発展は予測できるか」等々多岐にわたり、80人あまりの参加者はそれぞれ興味のある発表を自由に聞く、といった感じで行われた。
 この2日間我々日本人のために、英語をドイツ語に訳しそのドイツ語を日本語に訳して、私たちに話してくれた、日本人留学生の苦労は大変なものがあったと思う。
 これだけ熱心に私たちのために通訳し、案内してくれる彼女たちの為にも私たちも熱心に耳を傾けることになった。

6/3(土)晴
 朝6:30シンポジュームに参加する前に宿泊先のフルダの小さなホテルを出て、1人で町を散歩することにした。300年はたっていると言われる古い建物が並ぶ静かな街並み、古い石畳、人影のない町をゆっくり歩いて教会の先にある小さな橋を渡り川沿いの道を歩いてゆくと、早朝の静かな公園に出た。高い木々が生い茂り、小鳥のさえずりが聞こえ朝日が木立を通り抜け、青々と美しく管理された草の上におちる。それは息を飲むほどの美しい光景だった。小さな噴水とその周りに植えられた美しい草花、朝の静かな公園には自分1人がいた。
 ヒンヤリとした空気の中でその鐘の音はいきなりあたりに鳴り響き始めた。リンゴン、リンゴン鐘の音は四方から遠くに近くに鳴り響いた。リンゴン、リンゴン全身を鐘の音に包まれながらただ立ちつくしていた。思わず涙が零れそうになった。

6/4(日)晴
 2日間のシンポジュームを終え、フルダの町を出発ハンミュンデンに向かった。アウトバーンをバスで走りながら見る景色も美しかった。緑の森と丹念に耕作された農地がどこまでも広がり時おりレンガ色の屋根の集落が遠くに見える。ついつい日本の風景と比べてしまう。
 午後2時過ぎハンミュンデンに到着。旧市庁舎に通され市長役の歓迎を受ける。ハンミュンデンは人口27000人、バラ川とフルダ川の合流地点に広がる街で800年の歴史を持つ。美しい街である。
 その日、旧市街の広場を「水の広場」として改修したのを祝う祭りが行われていた。

6/5(月)曇時々雨
 ハノーファーで開かれているエキスポのメイン会場を見学、広大な敷地の中に各国のパビリオンが建ち並び、人気のパビリオンには人が多すぎてなかなか入れないので、人の少ない所を選んで見学。とても1日では回りきれない、少々疲れる。

6/6(火)曇
 今日はカツセル大学にて、竹の会の講演会が予定されている。夕方6:00からの予定なので日中はカツセル市内のお城と庭園を見学。カツセル市街を一望できる小高い丘の上に建つ石造りの城には、高低差10mほどの大きなカスケードがしつらえてあって、現在は日曜日だけ水が流されているとのこと。
 夕方6:00カツセル大学の教室にランドスケープを学ぶ50人ほどの学生と担当教授が集まってくれ、熱心に私たちの話を聞いてくれた。1人30分の持ち時間で竹の会のメンバー6人がスライドを使って講演し、その内容を日本人留学生がドイツ語に訳して話してくれた。6人のうち3人が建築関係の話しを、別の1人は諸塚村の役人で村の活性化のためどんな取り組みがなされているかを話し、もう1人の女性アーチストは自分の取り組んでいる環境芸術を中心に講演。私はといえば宮崎県内で作庭させてもらった庭をスライドを使って説明。多少予定時間をオーバーしながらも何とか無事終了。一同ほっとする。

6/7(水)曇
 宿泊先をハンミュンデンからポッペンハウゼンに移動。午後世界文化遺産ローンの事務局を訪問係りの人に事務局の活動について説明を受ける。ローン地域は、広さ18万haヘツセン・バイエル・チューリンゲンの3州にまたがり大きく3つのゾーンに分かれている。中心ゾーンは、自然のままにその周辺に自然との共生をもとめた開発ゾーンと、農業をエコロジカルにする農風景の保存を目的としたゾーンこれらのゾーンの中で小さな農業が財産となり原風景となるような様々な試みがなされている。1991年世界文化遺産に指定。

6/8(木)晴
 ドイツで1番高い山(H2920m)クロイツベルク山へハイキングに出かける。かなりの急斜面を2時間ほどかけて登る。疲れながらも途中眼下に広がる風景が心地よい。頂上に着くと修道院のビアガーデンにてみんなでビールを一気に飲み干す。ドイツのビールは、安くてうまい。昼食を兼ねて2時間ほど頂上で休み午後2時頃バートブリュッケナウ(鉱泉の保養地)に移動。ここはドイツでも有名な保養地らしく天然の炭酸水が湧き出ていて無料で飲める。私は、修道院で飲んだビールがきいて、2時間ほど庭園の木陰で眠ってしまった。美しい庭園の中に温泉施設やレストラン・宿泊施設などが点在しお年寄りの姿が目立った。庭園見学が半分しか出来なかったのが残念。

6/9(金)晴
 フルダ環境センターの見学
 環境センターの建物は、一見雑草に覆われた土手の中に埋まっているかのように見えた。国内に1000ケ所程度の活動施設があり環境教育に関わる様々な助言・展示会・案内・ワークショップ・講演会等をおこないその活動は広範囲にわたる。室内での説明の後、外の庭を案内される。庭は、幾つかのゾーンに分かれていて子供達も楽しくエコロジカルな体験が出来るようになっている。ドイツでの環境に対する規制は、かなり厳しそうである。例えば、建築基準法1つとっても
 1.本当にそのような建築が必要か広さが必要か(基本的には新築はさせたくない)
 2.用途が相応か
 3.同じ広さの敷地をもとめそこに同じような生態系をつくる。
 4.自然が受ける打撃を最小限に押さえる。
 5.同じ価値のものを別の場所につくる必要がある(木を植える池を造る等、価値判断   は 専門家が行う)
 6.自然を壊した分慰謝料を支払う方法(その金を自然保護に活用)
等々それは、建築にとどまらず数え上げると膨大な項目になりそうだ。環境センターを出た後フルダ市内を見学。荘厳なカトリック教会や美しい公園には、本当に圧倒される。残すところあと1日。

6/10(土)晴
ドイツ最後の1日、フルダ郊外のアードルフスエック城とその庭園を見学その帰りフルタ市内の小さな教会に入る。静まり返った教会の内部は物音1つせずヒンヤリとした空気が漂っていた。クツ音1つでも大きく響きわたるようなドームの中に修道女達の賛美歌の美しい歌声が厳かに響きわたりしばし時を忘れて聞き入ってしまう。その夜ポッペンハウゼンのアードラというドイツ料理店で全員で夕食をとる。ドイツ滞在中毎日私達の案内と通訳をしてくれた留学生の飯田さんとドイツ人学生アレキサンダー君に感謝。1人ずつこの10日間の感想を話す。

6/11(日)晴
ポッペンハウゼンからフランクフルト空港へ14:00帰国の途に

                        47L 植田敏裕